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信友が誰となく伺うと
「大殿のご遺志もございます故、殿の弾正忠家継承はもはや止めようのなきもの。
……ここは流れに身を任せ、じっくりと機会を窺うのが無難な道かと存じまする」
床に双の手をつかえながら、秀貞は真摯な態度で進言した。
「機会のう」https://www.easycorp.com.hk/zh/bank-account
「それに、実のことを申せば、肝心の信勝様が未だお心を決め兼ねておいでなのです」
「何と、其(そ)はまことか!?」
「はい。──柴田殿、有り体に申し上げよ」
秀貞は隣に控える権六を一瞥する。
「畏れながら、信勝様はご自身が信長様に代わってご家督を継がれることに対して、ひどく消極的でございまして、
“この期に及んで兄上と家督を争うつもりなどない”“自分は大殿が残した末森城を相続出来ただけで十分だ”と、左様に仰せで」
「何と欲のないお方じゃ」
「まさかここに来て、信勝様の品行方正な姿勢があだになるとはのう」
与一と三位は目を細め、他人事のように呟いた。
「じゃが、それでは…」
「それでは我々が齷齪(あくせく)と信勝様擁立に努めている意味がないではござらぬか!」
信友が言おうとするのを遮り、大膳が怒声を響かせた。
「肝心の信勝様のお心が定まっていなければ、信長殿から当主の座を奪う事はおろか、いざと言う時に兵も動かせぬ」
「まずは信勝様の心変わりに努められるべきであろう」
「そちら様が為すべき事を為さぬ内は、我々とて力添えの仕様がありませぬぞ」
大膳に続き与一と三位も声を上げ、秀貞たちを不甲斐なさそうに見つめた。
「事を進めたくば、まずは信勝様をご説得致されよ。──よろしいな?」
大膳は重々しく告げると、弾正忠家側の一同は、彼に対して頷くように頭を垂れた。
「いったいどういうつもりじゃ?」
秀貞たちが去った後、信友は何とも不愉快そうな面持ちで大膳らを睥睨した。
「…は」
「あやつらに釘を差さすのは儂の務め。何故そなたらがでしゃばるのだ」
主君の静かな激昂に、大膳は子供をあやす母のような甘い微笑を向けた。
「申し訳ございませぬ。あれしきの事ならば、殿が自ら御叱責あそばされる程の事ではないかと思いまして。──のう?」
と、大膳は隣の与一に目配せする。
「さ、左様にございまする。殿があまりにも口を開き過ぎては、ご当主としての威厳が損なわれます故」
信友は重臣らの言葉をふーんと軽く受け流したが、内心は憤りを感じていた。
彼は清洲織田家の当主でありながらも、家中の主導権は大膳を始めとする重臣たちに握られており、信友自身は張り子の内裏雛状態であった。
時にはその状況に甘んじる事もあったが、やはり何事にも大膳らが口を挟んでくる今の有り様に、信友も欝屈の思いを抱えていた。
「…ならば良いが、儂はそちらの傀儡になり下がる気はないぞ」
「ご安堵召されませ。殿は御無力な守護殿とは違いまする」
大膳の口元がきゅっと三日月形につり上がった。
彼の言う無力な守護殿というのは、斯波(しば)氏第十四代当主・斯波義統(よしむね)のことを指していた。
斯波氏はその昔、足利将軍に次ぐ役職を任ぜられた名門であり、尾張の守護職にあった。