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三津も戦の間は僅かな物音に敏感に起きていた。熟睡なんて出来たもんじゃない。ようやく手に入れた一時の安らぎだ。桂の心が少しでも安らぐように,今はそれだけを願って三津も眠りについた。
「なぁ,昨日の夜やけに静かやったな。」
朝餉を食べながら高杉が三津に言った。そりゃ寝てるんだから静かで当たり前だろと思ったが,そこで言いたい事が分かったから無言で拳を振りかざした。
「無言の圧力!前の可愛げがあった三津さんどこ行ったんや!」
高杉はやられる前に退散やとおどけながら広間から逃げ出した。周りは今日もいつも通りやなと笑って食事を続けた。
「朝っぱらから……。」
三津は呆れながら高杉の膳を片付けようと手を伸ばして一瞬戸惑った。
『……残してる。』https://www.easycorp.com.hk/zh/bank-account
いつもなら無駄にしたら罰が当たると平らげるのに。
昨日一人で呑んでたのだろうか。二日酔いなら頷けるが昨日は呑んでないはず。どこか体調でも悪いのかと思ったがさっきの高杉はいつも通りでそんな風には見えなかった。
自分の思い過ごしならいいなと思いながら三津は膳を片付けた。
そして家事に勤しんでいたから気付かなかったが,ここ最近高杉はおうのの家に居ると知った。
「元々おうのさんと住んどったんよ。身内に命狙われて小倉に逃げちょった時もおうのさん一緒やったって聞いてる。」
「そうやったんですか。」
台所で片付けをしながら三津はセツからおうのと高杉の事を教えてもらった。
「一度ね,息子さん連れて下関に来た雅さんとおうのさんが鉢合わせた事あるんよ。」
セツはあの時は気まずかったって高杉が顔面蒼白で愚痴ってるのをみんなが面白がってたと当時を思い出して笑った。
「えっ高杉さん息子さんいてるの!?」
「そうよ。梅の進ちゃん。今はもう五つになったんかしら?」
『息子おるのに私に子供産めって迫って来た高杉さんって……。』
三津は思い切り軽蔑の表情を浮かべた。その顔をセツは指をさして思い切り笑った。
「私も男って何でそんなんばっかりなんやって思ったけど,高杉さんも雅さんとは親の決めた結婚やったから何の感情もなく一緒になったんやって。
その後にね,こっちでおうのさんに出逢って惹かれたんやって。恋よ恋。
きっと高杉さんにとって運命やったんやろうねぇ。」
子供を抱えて萩に残された本妻を思うと何とも言えない気持ちになるが,恋するとどうなるか分かるでしょ?と言われて三津も複雑な心境で頷いた。
そう言えば桂が言っていた。
“晋作は親の勧めで何となく結婚したんだろうが私は違う。最愛の人を妻に迎えた。”
『そっか。だから私が居たらいいってそう言う事か……。
私も前は言ってたなぁ……。小五郎さんが居てくれたらそれでいいって。
今の私は高杉さんと同じ状態か。』
本妻の事も好きだが恋をしてしまった相手もかけがえの無いモノだ。
『白い目で見たらアカンな……。人の事言えんわ私……。』
三津は今の状態を猛省した。
それからその晩,桂にその話をした。自分が高杉と同じ状態だと言う事を。
「なるほどね。
でも三津はちょっと違うよ。だって私とは一度関係が終わってる。終わってから九一と共に歩むのを選んだ。それを私が略奪した。似てるようで違うからあまり気にしなくていい。
それに君は私の妻であると自覚し私を優先してくれる。」
「甘やかしてくれはるのね。」
「事実だ。それとその雅さんとおうのさんの鉢合わせは相当堪えたのか私にも文を寄越して愚痴ってきた一件だよ。」桂はその文を思い出してくすりと笑った。あれは高杉の自業自得だと。
「雅さんとの間には息子もいる。離縁も考えないのであれば雅さんを優先すべきでもっと気遣ってあげなければならない。
でもおうのさんに惚れてしまってそっちにしか目が行かなくなった晋作が悪い。」
「私も九一さんを好きになったからそこは何とも……。」
三津はこの件で私に言える事は何もないと苦笑した。
「だから言ったろう?三津は夫の私に配慮して動いてくれる。九一ばかりに気を取られてない。だから私は安心していられるんだよ。そこが晋作との違いだ。」
高杉は何食わぬ顔で三津の持つお猪口に少し酒を足した。
「私だけ生きててごめんなさい。ふくちゃん殺してごめんなさいって。」
三津は新たに注がれた酒を何の躊躇いもなく口にした。それを赤禰が少しヒヤヒヤしながら見ていたが殺しての一言に一瞬で無になった。
「ふくちゃんを殺した?ふくちゃんって誰や。」 https://www.easycorp.com.hk/zh/bank-account
「新ちゃんの妹で私と同い年で……友達でした。ふくちゃん新ちゃんの後追って喉元斬ったって聞きました。私が生き延びたから命が二つ消えてもて,それが辛くて苦しくて……。死にきれなくて謝るしか出来ひんくて……。」
それを聞いて高杉と赤禰は顔を見合わせた。
「すまん,辛い事思い出させた……。」
高杉が真剣な顔で謝ると三津は笑って首を横に振った。
「もう乗り越えました。新ちゃんは私に生きて幸せになって欲しかったんですよ。
物心つく前に母は死んでて母の事何一つ覚えてない上に病で父も亡くしました。
新ちゃんは生きて私に幸せを知って欲しかったんやと思うんです。
だからこうして皆さんと出逢わせてくたんです。
ってこれも私の都合のいい想像やけど,でも小五郎さん紹介した時“頑張れ”って言ってくれたんですよ!新ちゃん!
やから今日の宮城さんの伝言も本物ですよ。」
三津は眦に涙を光らせながら笑った。へらへら笑っておかわりちょうだいと高杉にお猪口を差し出した。
「今日はそれでやめとき。もうゆっくり休み。」
赤禰が三津を後ろからやんわりと抱きしめて自分の胸にもたれさせた。赤禰に背中を預けながら三津は赤禰を見上げておやすみなさいと微笑んで瞼を閉じた。
「三津さん案外闇が深い……。」
高杉は額に手を当てて溜息をついた。
「乗り越えたって言っちょるけど多分心の奥底にはまだ罪悪感あるんやろうな。ふくちゃん死なせたって。」
腕の中で眠る三津が急に消えてしまわないか不安になり,抱き留める腕に自然と力が入った。
「もしこの先その罪悪感に飲まれそうになったらその時は俺らが引っ張り出してやればいいそっちゃ。やけぇ俺らもいつまでも囚われとったらいけん。武人,次は宮城さん笑かしに行くぞ。」
「そうやな。」
二人はお猪口を酒で満たして宮城に献盃した。「三津さんに呑ませたらまた笑い話の一つや二つ作れるなと思ったけど今日は失敗やな。」
赤禰の腕に抱き留められてすやすや眠る顔があまりにも安らかで見入ってしまう。
「幸せを知って欲しくて俺らに引き合わせたって言う癖に,自分の幸せそっちのけで自分と同じ痛みを味わう人を救おうとしたり,同じ思いして欲しくないけぇ人の事ばっか気にしとるようにしか見えん……。どうやったら三津さんは幸せになるんよ……。」
声を震わす赤禰の横で高杉は静かに酒を呑んだ。
「俺らが幸せそうにしちょったらええんやない?人を幸せにするのが三津さんの幸せやとしたらそれが一番やろ。
後は桂さんと九一が馬鹿みたいに甘やかすけぇ心配いらん。」
「人を幸せにするのが幸せなら早よ嫁に行って子供作って家族幸せにしちゃればいいのに。」
赤禰は何でそれをせん?と眠る三津に問いかけた。
「そうだよな……。私も早くそうして欲しいんだが……。」
「桂さん。音も無く現れるのやめてくれん?」
いつの間にか背後に立っている桂に向かって心臓に悪いと高杉が口を尖らせた。女共に責め立てられて桶屋に帰ったんじゃないのか。
「いくら赤禰君が居るとはいえ晋作と晩酌なんて聞いたら心配でしかないだろ。赤禰君,三津を返してくれないか?」
この体勢でいるのも楽じゃないから助かりますと赤禰は三津を引き渡した。
「もうこのまま三津連れて隠居したい……。」
「はいはい駄目ですよー。部屋貸しますから明日も明後日も職務は全うしてくださいね。って事で武人さんの部屋お邪魔します。」
今度はどこからともなく入江が現れて,布団も敷いてますからどうぞと桂達の世話を焼く。
桂は“はぁー隠居したい”と言いながら廊下の奥へ消えて行った。
で?九一も三津につきまとってんの?」
「いや?お前がそうやって苛ついて三津さんが困るなら俺は部屋に戻るよ。」
入江はまたねと三津に微笑んであっさりと自室へ下がった。
「悪い,困らすつもりはなかった。https://www.easycorp.com.hk/zh/bank-account それより晋作と話し合うってかなり時間の無駄だけど?」
「三津さんが話したいって言っちょる。無駄かどうかは話してから三津さんが判断するそ。お前が決めつけんな。」
今度は吉田と高杉が睨み合ってしまい三津は間でおどおどした。
『ちゃう!おどおどしてる場合ちゃう!』
今日来た理由を思い出して自分を奮い立たせた。
「高杉さん!私に触らないって約束でお話してくれますか!?」
「おう。俺も話したかったけぇ。勿論二人やろ?ちゃんと約束は守る。」
高杉は吉田の様子を窺い,吉田は三津の様子を窺う。
三津は気合の現れとしてぐっと拳を握った。
「二人で!臨むところです!」
「だから何で喧嘩腰なん?まぁええわ。縁側で茶でも飲みながら話そうや。」
高杉はゆらりと立ち上がるとお茶頼んだぞと三津の肩を叩いて縁側へ向かおうとした。
「あ!触った!」
「今のはええやろ!早よ淹れてこいや!」
高杉に吠えられて三津は怖ーい!とおどけながら台所へ走った。
その様子に吉田から溜息が漏れた。
「本当に不安しかないんだけど……。まぁいいよ。俺はまた別に気になる事が出来たから。」
変な気起こすなよとだけ言い残して吉田も立ち去った。
その足で向かったのは入江の部屋。吉田の訪問に読んでいた本を置く。
「どした?三津さんに付いてなくていいのか?」
せっかく三津の隣を譲ったのにと不思議そうな顔をした。
「九一は三津をどうしたいの?」
「何だよその質問。」
何が聞きたいんだよと鼻で笑った。何が聞きたいか分かってる癖にそんな態度の入江に吉田は少し苛立ちを見せた。
「ごめん,そんな怖い顔すんなよ。俺はただ三津さんを甘やかしたいだけ。玄瑞みたいに兄になりたい訳でもないし,お前みたいに全てを欲しい訳でもない。」
「じゃあ何で甘やかすんだよ。」
そこには意味や目的があるだろう。はぐらかさずに教えろよと迫る。
「意味はないなぁ。桂さんのお仕置きが厳しいみたいだから甘える場所があってもいいじゃないか。
まぁ理由があるとしたらそれぐらい。」
「それなら俺が甘えさせるから九一がそうする必要はない。」
余計な事はしてくれるなと一睨み。それには入江も分かったよと肩をすくめて笑った。
殺意に近い怒りを残して吉田は部屋を後にした。
「稔麿真面目だからなぁ。卑怯な手も使わないと。」
妖しく笑いながら呟いて。吉田の居た場所を見つめた。
「三津さん……その額……。」
お茶を淹れに来た三津を見てアヤメが唖然としながら指を差した。
「やってしまいました……。」
「それは桂様も内心穏やかや無いですよ。」
腫れ上がった部分は青紫に変色していて,流石にサヤも溜息をついた。
サヤの溜息には三津も気持ちがへこんだ。
「久坂さんに手当はしてもらってるんで!」
「しましたけどこれ付けといてください。」
音もなく現れた久坂が後ろから抱きしめるように三津を捕獲し額に貼り薬を施した。ずれないように手拭いも巻いた。
「わわっ!ビックリしたぁ。ありがとうございます兄上。」
顔を上げて上から覗き込んでいた久坂に満面の笑みを向けた。
「何かあれば悲鳴上げるんだよ。助けが来るから。」
久坂は三津の頭をふわりと撫でてから台所を出た。
三津は元気をもらって嬉しさを全面に出しながら縁側に向かうと,
「おっ。」
「あっ。」
自分と同じように貼り薬をつけられた高杉。
「お揃いですね。」
「そうやな。」
二人でぷっと吹き出して互いの姿を笑いあった。
それから縁側に腰を下ろしてお茶を啜った。
「…と言う事だ。さっさと行って用事を済まそう。二人は忙しいから時間は無駄に出来ん。」
斎藤は総司の肩を二回叩いて横を通り過ぎた。
「そうね斎藤さんの言う通りやわ,ちゃっちゃと済ませよ。」
「行きましょ行きましょ!」https://www.easycorp.com.hk/zh/bank-account
和気あいあいと廊下を行く三人の背中を羨望の眼差しで見つめながら,総司は下唇を噛み締めた。
『何で否定しないんですか,二人とも……。』
お似合いだなんて言われて何も言わず,見つめ合ってただけの二人が何だか気に食わなかった。
追っかけて“私も行きます”って言いたいのに,足は動いてくれなかった。
『お似合い…なのかな……。』
あれだけ三津と一番仲が良いのは自分だと信じていたのに,時々こうして自信を失う。
好きならば強引になれと言う自分が居て,もう一方で彼女の幸せを願うなら身を引けと言う自分も居る。
『やっぱり人を想うのは苦手だ……。』
こんな時もやもやした気持ちを晴らす為の術も,剣術の練習に没頭するしか知らない。
総司はとぼとぼと道場へ向かうのだった。
「わぁ,人いっぱい!」
年越しの準備に勤しむ人で町も忙しなかった。
「はぐれるなよ。」
斎藤に釘を刺され三津はへらっと笑って頬を掻いた。
「じゃあ掴んどけ。」
ぶっきらぼうに差し出された右腕を三津はしっかり掴んだ。
慣れた様子で人混みを掻き分けるたえの後ろを二人は付いて歩いた。
『一年前はこの人混みが怖かったっけ…。』
しみじみと行き交う人を眺めながら,物思いに耽っているとじっとこっちを見ている人影に気付いた。
目深に笠を被って人の波に乗らず佇んでいる。
『あの人…。』
見覚えがあった。目深に被った笠のせいで顔はよく見えないが,きっと目は合っている。
少しだけ覗く口元が笑みを浮かべる。
そしてうっすらと唇が開く。
ただいま――――。
『ただい……ま……?』
確かにそう言った。
遠目だから見間違いかもしれない。
『でも,でも…。
あの人を小馬鹿にしたような,私の事からかってるように笑うのって,もしかして……。』
三津の心臓が急速に早くなる。
『吉田さん……。』
帰って来たんだ。彼が無事に帰って来た。
三津の目が大きく見開かれた。
すると視線の先の男は踵を返して三津に背を向けた。
「あっ!」
その背中を追い掛けようと飛び出した体は,すぐに後ろに引き戻された。
「どうした,どこに行く気だ?」
斎藤の腕が三津を引き止めていた。
「あ…えっとぉ……。」
『しまった,ここで吉田さん追い掛けたら確実に斎藤さんと斬り合いに…。』
ちらりと吉田と思しき男が居た方を見れば,その姿はもうなかった。
「三津?」
「はいっ!あの,ちょっと知り合いに似てる人が居たから。」
「それで追い掛けようとしたのか?」
「はい…。すみません……。」
三津はしょんぼり肩を落として反省の意を表した。
「ホンマに久しぶりに見かけたからつい……。」
「人違いじゃなかったか?確証もないのに追い掛けてはぐれてしまっても探してやらんぞ?」
「それは嫌…。」
「今度離れてみろ,屯所に帰ったら大声でお前が迷子になったと叫んでやるからな。」
「そっちの方がもっと嫌…。」
ぶるぶる首を横に振って腕にすがりつく。
離れないように三津がとった行動は,斎藤の腕を絡め取ってべったり引っ付くだった。
「止せ!みんな見てるだろう!!」
斎藤が力を込めて振り切ろうとすればする程,三津も必死でしがみつく。
「嫌やわ二人でそんな密着して見せ付けんといてくれる?」
荷物を抱えたたえがいいモノを見たとにんまり笑う。
「誤解だおたえさん。
コラ離れろ,おたえさんの荷物を持たにゃならんのだ。」
それなら仕方ない。三津は素直に腕を解いた。
「今の斎藤さん,周りから見たら浮気を妻に見つけられた旦那ってとこやで。この色男。」
「止めて下さい…。」
『こんな事になるなら沖田に譲れば良かった…。』
「あの、どのような稽古をなさるのですか」
興味が湧いてきた桜花は、山南へ視線を送る。
「ふふ。あれが中々に荒々しいのですよ。まず、竹刀では無く木刀を使います。真剣と同じ重さですね。私は竹刀に慣れていたものだから、初めはかなり戸惑いました」
「木刀!?」
「ええ。銀行開戶 それを起床してから寝るまで持って、ひたすら稽古に励むのです。腕が痛くて死ぬかと思いましたね」
山南はそう言うと面白そうに笑った。そして言葉を続ける。
「そこに道場主の人柄の良さが加わったものだから。私は門弟ではありませんでしたが、いつしか居続けてしまいました。平助、斎藤君、原田君、永倉君も同様ですよ。皆、気心の知れた昔からの仲間です」
慈しむように目を細める山南の横顔を見ながら、桜花は羨望の念を抱いた。寂しそうに口元に笑みを浮かべる。
「……何だか、良いですね。そういうの羨ましいです」
それを記憶を失ったことへの寂しさだと受け取った山南は、桜花の肩をポンと叩いた。
「貴方にもそういう居場所がきっとあったのでしょうね。いつか思い出せますよ。ここには若者も多いから、気の知れた友を作るのも一興ではありませんか」
その言葉に、桜花は小さく返事をする。
やがて山南は去って行き、代わりに藤堂が打ち込み稽古へ誘いに来た。それに参加すると、あっという間に時が過ぎる。
時の鐘が七つ鳴り、夕餉の支度へ参加すべく慌てて桜花は自室へ戻った。
汗に濡れた肌着を脱ぎ、新しいものへ袖を通す。マサから借りた小さな鏡の前に座ると、あることに気付いた。
「何これ……。痣……?いつからだろう」
左の鎖骨の下あたりに黒い痣のような物が浮かび上がっている。ぶつけたというよりは、刻まれたという表現の方が正しいほど、くっきりとしていた。
嫌だなと思いつつも、今はそれどころではないとサッと着付ける。そして一階へ降りていった。
『貴方がくれた情景の一つ一つが愛しくて仕方ないのに。
一人になった今はそれが痛くて辛くて堪らなかったんです』を貰ったため、京の街を散策してみることにした。だが、それは一人ではない。
「少しずつ暖かくなってきましたね。京の寒さは骨身に滲みるから嫌いなんですよ」
その隣には、一面が青に染まった清々しい空を見上げながら笑う沖田の姿があった。
こうなった経緯はほど前に遡る──
八木邸を出て、坊城通を挟んで前にある前川邸の門前を通ろうとした時、偶然にも土方と出会った。
『おい。何処へ行く』
『あ……。こ、こんにちは。その、一日自由にしていいと言われたので散策へ行こうかと……』
そう伝えれば、土方は思案顔になる。すると待っていろと短く言うなり、屋敷の中へ入っていった。連れてこられたのが非番だった沖田である。
そして現在に至っていた。桜花は気まずそうに沖田の横顔を盗み見る。視線に敏感な沖田は直ぐに察すると、視線を返してきた。
「ん、私の顔に何か付いています?」
「あ、いえ……。すみません」
護衛だと言っていたが、それは名ばかりでただの見張りだろう。新撰組でも屈指の剣豪をよこしてきた時点で、何かあれば直ぐにされてしまうのではないかと悪い方向へ思考がいってしまう。
そう思えば、みるみる桜花の表情はこわばっていった。それを見た沖田は苦笑いすると、その肩に手を置く。
「別に取って食いやしませんよ。貴方が思うよりも、この京の治安はずっと悪い。がそこらに転がっているなんて、日常茶飯事です。護衛が居た方が安心して歩けると思いますが」
沖田の言葉には一利あった。高杉にも指摘を受けたように、桜花は辺りを物珍しそうに見ながら歩いている。ましてや見た目は